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EGFRリキッド(一般の方向け)

EGFRリキッド(一般の方向け)

本検査は、非小細胞肺がん患者様を対象に、EGFR遺伝子の変化(変異)の有無を調べ、薬物療法(分子標的薬)の適応となるかどうかを判定するために用いるコンパニオン診断検査です。

目次

適用
非小細胞肺がん
対象薬剤
イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)
タルセバ(一般名:エルロチニブ塩酸塩)
ジオトリフ(一般名:アファチニブマレイン酸塩)
検体
血液(血漿)または手術、バイオプシーによる組織

EGFRリキッド検査の概要

適用:

非小細胞肺がん
※本検査の適用は非小細胞肺がんですが、検査を受けられるかどうかは主治医の先生にご相談ください。

薬剤:

本検査は、お薬の服用の効果があるかどうかを判定するコンパニオン診断検査です。本検査の対象となっているお薬は、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor: EGFR-TKI)のなかの3剤、イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)、タルセバ(一般名:エルロチニブ塩酸塩)、ジオトリフ(アファチニブマレイン酸塩)です。

検体:

本検査は、「血液(血漿)」、または「手術あるいはバイオプシーにより採取された組織」を用いて行います。

肺がんと治療

日本では、年間約125,000人の方が新しく肺がんと診断され、大腸、胃に次いで、3番目に罹患者の多いがんです。症状が出にくく、発見されにくい、予後があまりよくないという特徴があります。肺がんは、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに大きく分けられます。がんの増殖には様々な遺伝子の変異が関係することが分かっています。非小細胞肺がんと小細胞肺がんではタイプが異なるため、治療方法も違ってきます。

非小細胞肺がんの治療では、手術の適用とならない患者様に対して、放射線治療、化学放射線療法、薬物療法がおこなわれます。治療の選択は主治医の先生と相談して決めることになります。

※参考資料:国立がん研究センターがん情報サービスganjoho.jp

薬物療法

薬物療法には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。

細胞障害性抗がん薬は、一般的に増殖が活発な細胞の増殖を抑える機能があります。そのため、増殖が盛んながん細胞の増殖の抑制に効果があると考えられています。一方、普段から細胞分裂が活発に行われている正常な組織に副作用が起きやすいという問題があります。

免疫チェックポイント阻害薬は比較的新しい薬で、オプジーボ(一般名:ニボルマブ、本庶佑教授らが2018年にノーベル医学・生理学賞受賞)、キートルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)、ヤーボイ(一般名:イピリムマブ)などが肺がん治療で用いられています。これらの薬は、がん細胞により働きを抑えられてしまった免疫細胞に働き、免疫細胞ががん細胞を攻撃する機能を高める働きがあります。

分子標的薬については次に説明します

分子標的薬

分子標的薬とは、特定のタンパク質などの分子をターゲットとして、結合したりすることでそのタンパク質の機能を抑え、それにより病気の進行や症状を抑えることを目的としている薬です。

がんができたり、増殖したりするには、その原因となる遺伝子変異が生じていることがわかっています。遺伝子の変異は一様ではなく、がんの種類によって異なります。がんと関連すると考えられる遺伝子は数百に上り、そのなかでも、がんの発症と特に強い関連が認められる遺伝子はドライバー遺伝子といわれています。

これらのドライバー遺伝子を対象とした薬が分子標的薬です。分子標的薬は、がん細胞に対して働くため、細胞障害性抗がん薬のような正常な細胞への影響は少ないです。

ドライバー変異

EGFRリキッド検査を詳しく理解いただくためには、遺伝子変異についても説明する必要があります。

1つのドライバー遺伝子の中にも、多種類のがんの原因となる変異がみつかることがあります。たとえば、EGFR遺伝子では、がんの原因となる数十の変異がみつかっています。このような遺伝子の変化をドライバー変異といいます。分子標的薬は、厳密にはがんの原因となる特定の遺伝子の変化(ドライバー変異)をもつがん細胞を標的として働き、がんの増殖を抑えます。そのため、このような分子標的薬を用いるためには、遺伝子の変化(ドライバー変異の有無)を調べる必要があります。

分子標的薬とその効果

分子標的薬は、効き目が鋭い薬ですが、薬が標的としている遺伝子に変化があるがんに対してのみ効果を発揮します。

図は、イレッサの効果を示すグラフですが、EGFR遺伝子に変異(ドライバー変異)がない患者様では効果がほとんどないことが示されています。

このように、ある遺伝子(ここではEGFR)を標的とした薬(分子標的薬)は、その遺伝子に変異(ドライバー変異)がある場合にしか効果がありません。そのため、EGFR遺伝子に変異があるかどうかを調べる検査が必要になります。

EGFR遺伝子の変異

図は、EGFR遺伝子から作られるタンパク質の模式図です。

図の右側に示した「EGFRチロシンキナーゼ活性領域」にあたる遺伝子領域に変化(ドライバー変異)が起こると、EGFR遺伝子が常に働き続け、がん細胞の異常な増殖が引き起こされます。「EGFR-TKIの効果に影響する変異」として、図に記載しているのは6つの変異で、Exon19欠損、T790M、C797S、L858R、L861Q、L861Rがあります。
6つの変異は、働きによりさらに大きく3つに分けられます。

  • ドライバー変異(活性化変異):Exon19欠損(欠失)、L858R、L861Q、L861R
    ※これらの変異がある場合、EGFR陽性と表現されます。
  • 耐性変異:T790M
    ドライバー変異に対して分子標的薬を投与しても、T790M変異が生じると、分子標的薬が効かなくなります。分子標的薬の中にはこの耐性変異をターゲットにした薬もあります(タグリッソ[一般名:オシメルチニブメシル酸塩]。現在では、EGFR陽性のファーストラインとしても使われています)。
  • 第2の耐性変異:C797S
    ※耐性変異 T790M に対して効果が認められた分子標的薬(タグリッソ[一般名:オシメルチニブメシル酸塩])を投与しても第2の耐性変異 C797S が生じるとタグリッソは効かなくなります。

EGFRリキッド検査

EGFRリキッド検査は、EGFR遺伝子(上皮成長因子受容体遺伝子;Epidermal Growth Factor Receptor Gene)に生じた活性化変異を調べ、陽性か陰性かを判定します。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-Tyrosine Kinase Inhibitor;EGFR-TKI)のコンパニオン診断薬で、検査結果が陽性の場合に、EGFR-TKIが適応となります。

開発のコンセプト

遺伝子検査は、多くの場合、PCR法という技術を用いて実施されますが、検査感度に限界があります。そのため、PCR法を改良した方法(変法)も数多く行われています。また、精度を上げるための新しい技術も誕生しています。EGFRリキッド検査では、次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing; NGS法)という新しい技術を用いて遺伝子の変化を調べます。NGS法では、PCR法と比べてかなり高い感度で変異遺伝子を検出することができます。EGFRリキッド検査では、試験系を改良することでPCR法の数倍から100倍(変異により異なる)の感度が得られるようになりました。

また、本検査はリキッドバイオプシーにも対応しています。肺がんでは気管支鏡を用いる肺生検により組織検査を行いますが、肺生検は苦痛を伴う検査といわれています。本検査は、侵襲性の低い血液検査によりEGFR遺伝子変異の有無を調べることができます。

まとめ

EGFRリキッド検査は、非小細胞肺がんの方を対象に、EGFR遺伝子の活性化変異(ドライバー変異)を調べるコンパニオン診断検査です。本検査は、血液(リキッドバイオプシー)あるいは組織を検体として行います。検査結果は、「EGFR陽性」、「EGFR陰性」のいずれかです。検査結果がEGFR陽性の場合は、イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)、タルセバ(一般名:エルロチニブ塩酸塩)、ジオトリフ(一般名:アファチニブマレイン酸塩)の3つのEGFR-TKIが治療薬として適応となります。

本検査を受けられるかどうかは、主治医の先生にご相談ください。

概略図

Q&A

どのようなときにこの検査を受けるのでしょうか。
一般的には、非小細胞肺がんで手術ができず、薬物療法を検討している場合に本検査を受けていただくことができます(参考:肺癌診療ガイドライン2019年度版[日本肺癌学会])。
この検査を受けることはできますか。どこで検査を受けられますか。
本検査を受けられるかどうかは、肺がん治療の主治医にご相談ください。
なぜ血液でも肺がんの検査ができるのでしょうか。

がん患者の方の体の中では、免疫細胞ががん細胞と戦っているため、血液中に壊れたがん細胞から漏れ出たがん細胞由来の遺伝物質(circulating tumor DNA;ctDNA)が循環しています。血液によるEGFR遺伝子検査では、このctDNAとして存在するEGFR遺伝子を調べています。
図では、血液中のがん細胞由来のEGFR遺伝子が、薬物療法により薬剤抵抗性を持つように変わる(薬が効かない構造へと変化する)様子を示しています。

どのようなときに血液を用いた検査(リキッドバイオプシー)を行うのでしょうか。
詳細な診断及び治療法を選択する場合に用いることができます。
ただし、肺がんの再発や増悪により、EGFR遺伝子変異の2次的遺伝子変異等が疑われ、再度治療法を選択する場合、たとえばEGFR遺伝子に耐性変異が生じた可能性がある場合は、本検査はコンパニオン診断として利用できないため、お使いいただけません。
EGFR遺伝子検査では何がわかるのでしょうか。
ドライバー変異と呼ばれるがんの原因となっている遺伝子変異がわかります。EGFR遺伝子変異がドライバー変異であることが分かれば、EGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)で治療することができます。
EGFR遺伝子変異の場合、薬剤に対する耐性変異もわかっています。耐性変異が生じるとそれまで効果があった分子標的薬が効かなくなります。そのため、治療を変える必要が生じます。
※EGFRリキッドでは、耐性変異の検査は行いません。
コンパニオン診断とは何でしょうか。
分子標的薬には、その薬を効果的に用いるために、標的となる遺伝子に変異があるかどうかを調べる検査を行います。このような検査をコンパニオン診断といいます。コンパニオン診断を必要とする薬剤では、遺伝子に変異がある場合(変異陽性)のみ、薬が適応となります。
EGFRリキッドで陽性だった場合、どの薬が適応となりますか。
治療薬
ゲフィチニブ(製品名:イレッサ)
エルロチニブ塩酸塩(製品名:タルセバ)
アファチニブマレイン酸塩(製品名:ジオトリフ)


用語集

コンパニオン診断

EGFR-TKIに対応するEGFR遺伝子検査のように、特定の薬剤を投与するためにあらかじめ行う遺伝子変異を検出する検査。

非小細胞肺癌

最も多い肺がんのタイプで、全肺がんの90%以上を占める。肺がんには非小細胞肺癌以外に小細胞肺がんや大細胞肺がんがある。

血中腫瘍DNA・循環腫瘍DNA(Circulating Tumor DNA; ctDNA)

がん患者の血液中に存在する腫瘍細胞から放出された遊離DNA(cell-free DNA; cfDNA)。

リキッドバイオプシー

がん患者の血液中にはがん細胞から放出された遊離DNAがあり、高感度な検出技術を用いれば、この遊離DNAを用いて遺伝子検査をすることが可能。血液を用いたがん遺伝子検査はリキッドバイオプシー(体液を用いた生検)とよばれ、生検の侵襲を回避できるほか、がんの早期発見にも役立つ可能性があるため、現在世界中で盛んに研究開発が行われている。

次世代シークエンス・次世代シークエンサー
(Next Generation Sequencing / Sequencer; NGS)

遺伝情報を解析する高度な技術で、個人の全ゲノム配列(全遺伝情報)でも低コストで得ることが可能(現在一人当たり10万円)。
EGFRリキッドでは全ゲノムを一回解析するかわりに、EGFR遺伝子のみを1万分子以上解析して変異を探索するため、目的の遺伝子変異が低頻度でも検出することを実現している。

上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤
(Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor; EGFR-TKI)

進行性非小細胞肺癌の治療に広く使われている薬剤。この薬の治療効果は、EGFR遺伝子に特定の変異(エクソン19欠失、L858Rなど)がある場合に限られるため、これらの変異の検出は薬剤選択の条件とされている。日本では、進行性非小細胞肺癌におけるEGFR変異陽性の比率は50%以上であり、これらの肺がん患者に対して年間5万件以上のEGFR遺伝子検査が実施されている。

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